サハラの好きなもの Vol.4 月
2006年 07月 05日
開けてみる社(やしろ)の中に何もなし
これは、夫の祖父が遺した言葉です。
神主をナリワイとしていた祖父が教えてくれたこと。
神さまは、偶像の中にいないこと。
神さまは、八百万(やおよろず) 無限ほどいて
誰の心にも、どんなものにも、神さまが宿っている。
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20代のある時期をアメリカで過ごしたことがあります。
現地で4ヶ月間英会話を学び、日常会話に困らなくなった頃
グレイハウンドバスに乗り一人旅に出ました。
行く先々で見るもの触れるものすべてが新鮮でした。
グランドキャニオンでは谷底で1泊することにしました。
小石交じりな柵のないトレッキングロードは、ズルッズルッと滑ります。
「あっ、危ない!」
あと数10cmで崖下に落ちてしまいかねないことも何度かありました。
どうにか無事にたどり着いた谷底で空を見上げると、
そこには下弦の月がぽっかりと浮いていました。
「アメリカでの思い出は?」
帰国して何度となく聞かれたこの質問にサハラはこう応えたものです。
「グランドキャニオンの谷底で見た下弦の月です」
雨の夜空に月は見えませんが
姿が見えずともそこに月があるのだと思うだけで、ほっとします。
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- 林 完次
- 宙(そら)の名前