優しい声。
2004年 12月 05日
気がかりなことが続いている。
そのせいか、すっかり忘れてしまった。
サハラの住むマンションは、ベランダに洗濯物を干してはいけないルールがある。たいていはバスルームに干しているのだけど、昨日はいいお天気だったこともあり屋上に干しに行った。
深呼吸もしたかったし。
夕飯も終わり、何かを忘れている気が……。
「あっ、洗濯物!」
越してきて3年、こんなことは初めてのこと。
大したことではないと思いつつ、少し萎れた。
ふだんどおりではない自分の粗忽な部分が露呈してしまうことに。
屋上に行くとそこには忘れられた洗濯物と、今朝出会ったお月さま。
地上でサハラが慌てているのを、しっかり目撃されてしまった感じ。
「慌てないで、ひとつづつでいいから」
空の上から淡い光と共に、優しい声が聞こえてきた。
またひとつ、深呼吸。
なにがあっても、ひとつづつ。
そう、ひとつづつ落ち着いて、いつもどおりに。
+ + +
著者: 林 完次
タイトル: 月の本—perfect guide to the MOON